English

健康情報誌「消化器のひろば」No.9

健康情報誌「消化器のひろば」No.9

FOCUS

胃がん検診を巡る新たな展開

胃内視鏡検診の期待が高まる一方、
胃がん検診の体制構築が重要な課題である

我が国では、極めて高い胃がん死亡率に対応するために、これまで胃 X 線検査による検診が公共の施策として行われてきました。 しかし、この胃がん検診も、最近では受診者数が伸び悩むなど、多くの課題を抱えた状態にありました。 一方、苦しい検査の代表であった胃内視鏡検査が、格段の機器性能向上により、診療現場では標準的な検査として日常的に行われるに至っています。 その結果、人間ドックなどを中心に内視鏡検診を行う施設が、近年増加の一途を辿っています。 特に、経鼻内視鏡をはじめ、内視鏡機器の細径化・小型化の流れが加わって、内視鏡検診が受診者に受け入れやすいものとなり、内視鏡による精密な胃がん検診が待望される機運にありました。

しかし、これまで内視鏡検診に関しては死亡率減少効果が証明されておらず、公共の施策として行われる胃がん検診としては採用されていませんでしたが、 この度、胃内視鏡検診の有効性が科学的に証明され、自治体や職場で行われる検診として認められることになりました。胃内視鏡検診に対する期待は大変高く、今後は全国で積極的に実施されていくものと思われます。 しかし、内視鏡検診を担当する専門医不足が予想されること、検診プログラムの管理体制が未整備であること、そして、何より内視鏡による重篤な偶発症に対する安全性の確保が必要になるなど、多くの課題があります。 すでに胃内視鏡検診を公共の施策として導入している外国のデータを見ると、実に4割以上の胃がんが見逃されていることを示す報告もあります。 これは我が国の胃 X 線検診よりも悪い成績で、胃内視鏡検診の実効を挙げるうえで、精度管理の行き届いた胃がん検診体制の構築が極めて重要であることを示しています。

一方、胃内視鏡検診を全国に普及展開していくうえでは、検診を担う内視鏡医不足に加え、負担の多い内視鏡検査を対象者全員が一律に受けるのではなく、胃がんハイリスクの個人を選別して検査対象とすることができれば理想的でしょう。 この観点から、近年、いろいろな研究が行われており、その結果、血液検査を使って個人の胃がんリスクをある程度診断できるようになってきました。リスク検診と呼ばれ、一部は実際の検診にも試験的に導入されています。 胃がんリスクの高い方を選別して内視鏡検診の対象とする“ABC 検診”がその代表格です。 これらは試験的段階にある検診で、有効性が証明されたものではありません。 未だリスク判定規準を含めて重大な課題を抱えており、特に “胃がん低リスク”との診断の信頼性にはかなり問題があります。 これらの検診の科学的根拠が十分ではないことをご理解のうえ、実施者から検診の不利益に関する事前の説明を受けて、ABC 検診などの限界を十分認識されたうえで受診されることをお勧めします。 いずれにしても、がん検診は有効性が科学的に証明された方法で受診されることが大切です。

帝京大学医学部
特任教授

一瀬 雅夫

一瀬 雅夫 近影

ページトップへ