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健康情報誌「消化器のひろば」No.9

健康情報誌「消化器のひろば」No.9

ずばり対談

 ずばり対談= 歌手・俳優 厚生労働省肝炎総合対策推進国民運動特別参与 杉 良太郎/東京大学大学院医学系研究科消化器内科学教授 日本肝臓学会理事長/日本消化器病学会理事 小池 和彦

肝臓病は日本人の“国民病”です。多くの人が肝炎にかかり、その終末像の肝臓がんで年間3万余人が亡くなっています。肝炎対策基本法が施行され、肝炎患者の診療態勢は整備されました。 肝炎ウイルス検査・陽性者の受診・専門医との連携による治療の実施などです。しかし制度の利用者は限られています。その啓発と普及に“肝炎対策広報軍団”の活動への期待が高まっています。 本日は軍団の統括者・杉良太郎さんをお招きして肝臓がんの入り口・肝炎の対策について対談いたします(小池和彦)。

(2016年4月7日収録)

小池
お忙しいところ、おいでいただきまして、ありがとうございます。奥様の伍代夏子さんの肝炎の診療に携わりましたのがご縁で、本日は初対面の杉さんと対談することになりました。


よろしくお願いいたします。伍代とは1999年に結婚しましたが、その5年前に人間ドックで C 型肝炎が見つかっていました。 疲れやすいといった症状はありましたが、気合いを入れながら歌手活動を続けていました。 血液中の C 型肝炎ウイルスの量は少なく、肝機能を示す GOT と GPT の値は基準値よりもやや高めという程度でした。 その間、定期検査を続けるだけで、特に治療は受けませんでした。

小池
肝炎発見から15年後の2009年に東大病院を受診されたのはなぜですか。


少し勉強をしましたら肝炎はとても怖い“国民病”だとわかりました。放っておくと慢性化して感染から20 ~ 30年後には肝硬変や肝臓がんが発病してくることを知り、 また伍代は B 型肝炎も患っていましたので、第一線の肝炎専門医の受診を伍代に強く勧めました。 そこで小池先生をご紹介いただきました。また従来のインターフェロンを改良したペグインターフェロンが C 型肝炎ウイルスをうまく追い出して優れた治療効果が得られるといった情報も得ていました。

小池
伍代さんには東大病院4階の特別室で お目にかかり、肝炎はそれほど進行してはい ないが、経過が長いので治療すべきだとお話 ししました。 注射薬ペグインターフェロンと飲み薬リバビリンの併用療法を行いました。


伍代は1年半にわたる長い治療の間にさまざまな苦痛を経験しました。 最初に高熱が出て、次にリウマチのような強い症状が続き、コンサートで30曲も歌うと"のど"が硬直して死ぬ思いで声を絞り出してフィナーレを迎えるような日々でした。 強い貧血も起こり"めまい"で倒れそうになる、うつ症状も出てきて「失踪したい」などと言い始めました。

小池
ペグインターフェロン療法は効果が向上したとはいえ、日本人に多い難治性の肝炎(ゲノタイプ1型ウイルスの多い例)のウイルス排除率はまだ低く、また種々の有害反応は軽減されていませんでした。


伍代はゲノタイプ1型でしたが、輸血の経験はなく感染経路は不明です。 治療の前に 48週間で治るだろうとのお話でしたが、ウイルスの量が減らず24週間の治療が追加されました。 伍代のマッサージをしたり家事をやったりしていた私の方ががっくりしました。

小池
伍代さんはがまん強く治療を続けられ C 型肝炎は完治しました。 B 型肝炎ウイルス は今のところ排除できませんが、ウイルスキャ リア(持続感染者)の約80%は健康に過ごされています。 障害が起こるような方には肝炎 が進行しないように診療を続けます。伍代さんは肝臓に障害が起こらないケースと判断され、検査を続けながら経過をみています。


C 型肝炎のようにさっぱりと片が付くといいんですがねえ。

小池
翌2010年、伍代さんがインターフェロン療法の継続中に「私はC型肝炎ウイルス のキャリアです」と婦人総合誌で『告白』をされました。これが一つのきっかけとなって社会問題となり政治が動き始めたようですね。


私は2012年に厚生労働省から肝炎総合対策推進国民運動の「特別参与」に任命されました。 背景には伍代の肝炎の闘病経験を通して肝炎への理解があること、若いときからさまざまな奉仕活動を行ってきたことがあります。 さらに薬害肝炎訴訟が社会問題になっていたころ、当時の福田康夫首相に、「これだけ国民に訴えられる日本という国は恥ずかしい。訴訟をみんな取り下げて、まとめて面倒 をみるくらいの度量が欲しい」と話しました。 そんな言動が国会議員の先生方に注目されご推薦いただいたようです。任務は肝炎の撲滅にありますが、私たちの活動により、まず一 人でも多くの方に肝炎ウイルス検査を受けていただくことです。

小池
たくさんの有名人が肝炎対策のメンバーとして広報活動をされていますね。


はい。『知って、肝炎』プロジェクトには、「大使」の徳光和夫さん、小室哲哉さんと伍代、スペシャルサポーターとして石田純一さん、島谷ひとみさん、堀内孝雄さん、コロッケさんら30人を超える芸能界とスポーツ界の著名人が参加しています。 私はこうした広報チー ムを統べること、新しいサポーターの参加を勧誘すること、それに広告代理店との交渉などにも携わっています。 若い世代への啓発が必要と感じEXILE、AKB48らへ声をかけ加わってもらいましたが、みんな大活躍しています。

小池
杉さんの人気と行動力への期待は大きいですね。伍代さんが東大病院へ入院された5日間にみせた女性看護師たちの「杉様に会えるかも」との熱狂ぶりに驚きました。 その後、特別参与就任を知り、こんな人気者が「肝炎 の検査を受けてください」と言えば多くの方が受診するだろうなと納得しました(笑)。


私たちは種々の広報活動を行っていますが、サポーターの地方自治体首長への表敬訪問活動が反響を呼んでいます。 住民の方に肝炎検査を勧めていただき、検査の無料化のお願いもします。その際、取材にみえた記者さんたちのリポートが新聞やテレビで報道され、地域の方たちの肝炎への関心を高めています。 自治体の要請を受けてメンバーが出向く機会が増え、昨2015年には全国20 ヵ所近くを訪ねました。

小池
最近、ご自分が C 型肝炎に感染していることを知らない方が、2000年の約130万 人から2011年には約30万にまで減少したことを、広島大学の田中純子教授(公衆衛生学)が発表されました。 その後、この30万人がなかなか減らないようです。「最後のとどめ」は大使やサポーターにゆだねることになりそうですね(笑)。


まだ30万人もいるんですね。お国が受け入れ体制を整え、懸命に検査を呼びかけていても難しいですか。 今では辛い思いをすることもなく12週間薬を飲むだけで C 型肝炎が克服できます。 自分の健康は自分で守ると いう自己責任の認識のない方が今も多いんですね。私たちは広報活動をさらに充実させます。 それと肝臓がんの死亡率ワースト3の愛 媛、鳥取、佐賀の各県を重点地区として何回もキャンペーンをやり、肝炎検査の受診率の変化をみるといったことも考えています。

小池
伍代さんの『告白』のなかで「そのうち画期的な新薬が出てくることに希望を託しています」と話されていましたが、その少し 後から C 型肝炎の薬物療法は急速に進展してきました。 流れの大筋は杉さんがお話しされ たとおりです(下記のコラム参照)。


近年、肝炎ウイルスが関係しない新しいタイプの肝炎が増えているそうですね。

小池
非ウイルス性肝炎ですね。脂肪肝の一部が肝硬変や肝臓がんに進展します。 NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)が発生し、その一部がNASH(非アルコール性 脂肪肝炎)に進み、さらにその一部から肝臓がんが出てくると考えられています。 B 型・ C 型肝炎とは違うので非 B 非 C 型肝炎とも呼ばれます。肝臓がんの年間死亡者約3万人のうちウイルス肝炎関連の死亡数が減る一方で、非ウイルス性肝炎による肝臓がんの死亡数が急増して、今では約30%を超えています。


ウイルス肝炎の完全撲滅を前に実に手強い敵が現れてきたということですね。

小池
そうですね。研究が徐々に進み、種々の要因が複雑に関わり合って病状を進行させることがわかってきました。 栄養の摂り過ぎや肥満は有力な危険因子です。日本人はアル コールの代謝が弱いのでほどほどのお酒でも肝障害が起こることがあるかもしれません。 発がんだけでなく心血管疾患を促進させることや糖尿病との関係も指摘されています。自分で生活を律していかないと肝臓がんのリスクが大きくなる時代になりました。


私は高血糖の傾向があるので、食事やお酒、体重や運動などにしっかりと気をつけるようにしています。 非ウイルス性肝炎にも同 じような心がけが必要ということですね。 ところで小池先生は厚労省の研究班長としてこの方面の日本の研究を牽引(けんいん)されていると聞いています。 私は新たな肝炎の克服に向けても懸命に広報活動を展開していく覚悟でおります(下記のコラム参照)。

小池
よろしくお願いいたします。 本日は長時間ありがとうございました。

構成・高山美治

C型肝炎ウイルスとの闘い

C 型肝炎ウイルス(HCV)は1989年、米国で発見された。現在、 HCV キャリア(持続感染者)は世界に1億7000万人、日本には 約150万人いると推定されている。HCV は血液を介して感染する。 感染者の約70%が慢性化し、感染後20~30年に肝硬変や肝臓がんを発病 し始める。日本では1992年に保険による C 型肝炎のインターフェロン療 法が始まった。その後、飲み薬リバビリン(抗ウイルス薬)などとの併用 療法、ペグインターフェロンの開発などにより、肝炎ウイルスの排除率は 向上した。しかし日本人に多い難治性の肝炎(ゲノタイプ1型ウイルスの 多い例)への効果は限定的であり、有害反応は解消されないままであった。 2011年11月にたんぱく分解酵素・プロテアーゼ阻害薬が保険収載され C 型肝炎治療は飛躍的発展を遂げた。ペグインターフェロン・リバビリンと の併用で肝炎ウイルスの排除率は約85%になった。患者の苦痛はプラセボ (偽薬)と同レベルだった。2014年7月にはプロテアーゼ阻害薬と NS5A 阻害薬とのインターフェロン・フリーの併用療法が一般診療で使われるよ うになった。2015年6月には保険適応の併用薬として NS5B 阻害薬が加わ り、肝炎ウイルスの排除率は99%に達している。(C 型肝炎治療ガイドライ ン第5版より)

〈お知らせ〉
ウイルス肝炎をもっと知りたい方は厚生労働省のホームページ
「知って、肝炎」(http://www.kanen.org/ )をご覧ください。

プロフィール

杉 良太郎(すぎ りょうたろう)

杉 良太郎(すぎ りょうたろう)
本名・山田勝啓。1944年8月14日、神戸市生まれ。
1965年、コロムビアレコードより歌手デビュー。1967年、NHK「文五捕物絵図」の主演で脚光を浴びる。その後「右門捕物帖」、「遠山の金さん」をはじめ1,400本以上に主演するほか、歌手としても「すきま風」がミリオンセラーに。1996年、長年の舞台活動と文化交流を高く評価され文化庁長官表彰、1998年、2009年に文化関係者文部科学大臣表彰を、2009年、紫綬褒章を受章。
芸能界デビュー前の15歳のときから、刑務所や老人ホームへの慰問など献身的な福祉活動を続け、1996年には法務省初「名誉矯正監」を拝命。さらに2008年には「特別矯正監」というポストが杉のために新たに作られ、現在は受刑者への講話だけでなく、刑務所を視察し、刑務所改革のための進言を行っている。それらの長年の功績が認められ、数々の大臣表彰を受章し、2008年、芸能人初の緑綬褒章を受章。現在は、法務省・特別矯正監だけでなく、厚生労働省・肝炎総合対策推進国民運動特別参与、日本とベトナムの両国の外務省より委嘱を受け、日・越特別大使、越・日特別大使を務める。2013年11月には、外務省日・ASEAN 特別大使として日本とASEAN 友好協力40周年を記念した音楽祭を開催。草の根レベルの慈善活動から始まり、長年にわたり海外との文化交流や日本の文化振興に多大に貢献してきたことが称され、内閣総理大臣より感謝状を贈呈される。
近著『媚びない力』(NHK 出版)には、頼まれもしないのにこうすれば相手が喜ぶのではないかと勝手に妄想が広がり、その「妄想」がこれまで自分を突き動かしてきた、と記している。

小池 和彦(こいけ かずひこ)

小池 和彦(こいけ かずひこ)
1980年、東京大学医学部卒業。86年、米国立衛生研究所分子ウイルス部客員研究員。88年、米国赤十字ホランド研究所ウイルス部客員研究員。97年、東京大学医学部第一内科講師。2004年、東京大学大学院医学系研究科感染制御学・生体防御感染症学教授。09年、東京大学大学院医学系研究科消化器内科学教授。現在、日本肝臓学会理事長/日本消化器病学会理事/日本医学会連合理事/厚生労働省「C 型肝炎を含む代謝関連肝がんの病態解明及び治療法の開発等に関する研究」の研究班長などを務める。

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