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健康情報誌「消化器のひろば」No.10

健康情報誌「消化器のひろば」No.10

FOCUS 高額な医薬品について

「特例拡大再算定制度」が問いかける国民皆保険制度存続の可能性

 最近、マスコミでも大きな話題となっている高額医薬品について紹介いたします。C型肝炎ウイルスに対する標準的治療はインターフェロンが中心となっていたのですが、2014年に副作用が少なく有効率が非常に高い経口抗ウイルス薬が登場しました。2015年に発売されたレジパスビル/ソホスブビルは100%近くのウイルス駆除率を示し、その薬価は120日で600万円以上と算定されました。たしかにウイルスの駆除により将来の肝硬変や肝がんが激減することを考慮した費用対効果の面でも有用性が高いものと判断されたわけです。しかし、国の予想よりはるかに多くの患者さんに使用され、年間使用額1,500億円以上が見込まれたレジパスビル/ソホスブビルに対して『特例拡大再算定』が適用され、2016年4月から薬価が31.7%引き下げられました。特例拡大再算定制度とは、薬の年間販売額が1,000億~1,500億円かつ予想販売額の1.5倍以上と見込まれる製品は薬価を最大25%引き下げ、年間販売額が1,500億円超かつ予想販売額の1.3倍以上となる製品は最大50%引き下げるという新たな制度です。

 さらに大きな問題となっているのが免疫細胞を抑制するがんの働きを阻害する免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブです。最初は患者さんが年間470人程度である皮膚がんの悪性黒色腫に対する適用を取得したので、当時の計算方式により1年間で3,500万円という高額な薬価が設定されました。しかし、その後、2015年12月には患者数が100倍以上の肺がんにも適用拡大され、さらに、現在、臨床治験が施行中の胃がんにまで適用されると、対象患者は5万人以上に達する可能性もあります。

 ニボルマブはたしかに優れた新薬ですが肺がんに対する奏効率は20%程度です。また、現時点では、投与前にどの患者さんに効くのかを判定する方法がないために、患者さんや主治医は『肺がんに効く新しい薬』としてほぼ全員に対して使用する可能性があります(注:効果を予測できる検査が2017年2月に保険収載されました)。その場合、単純に計算してもニボルマブ単独で年間1兆円程度の医療費が増加することになります。日本の国民皆保険制度では、『高額療養費制度』により、医療費の自己負担が一定額を超えた分は税金で救済されるので超高額新薬でも使える仕組みになっています。しかし、超高額な医薬品により日本全体の医療費が高騰して現在の国民皆保険が維持できなく恐れがあります。このような背景から、国は2017年2月からニボルマブの薬価を50%引き下げることを発表したのですが、十分な対応とはいえないものと思われます。

 今後、ニボルマブと同様の超高額薬剤がさらに市場に出てきます。現在の国民皆保険制度を私たちの次の世代に引き継ぐのか、それとも世界で唯一の制度を捨て去るのか、重大な選択をする必要が生じているのです。

国立国際医療研究センター
国府台病院

上村 直実

上村 直実 近影

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