English

「機能性ディスペプシア(FD)診療」とくに保険診療に関するQ&A一覧

「機能性ディスペプシア(FD)診療」とくに保険診療に関するQ&A一覧

はじめに

2013年に日本の保険診療名として初めて機能性ディスペプシア(以下FD)が承認され、さらに2014年には日本消化器病学会(以下、学会)がFDに関する診療ガイドライン(以下、ガイドライン)を作成し、一般に公表しています。しかしながら、臨床の診療現場において、FDの診断方法や治療などに関して戸惑う事項も残っているのが現状だと思われます。今回、診療現場から学会に寄せられた疑問や質問(以下Q)に対して学会の見解としての回答(以下A)を作成して公表することとしました。なお、本Q&Aの回答はあくまでも学会としての医学的見解であり、保険診療の査定基準等と乖離する場合もあることをご承知いただきたいと思います。

診断について
1. 内視鏡検査等の実施時期は、いつの時点までが有効ですか?
2. FDと慢性胃炎との併記は可能ですか?(慢性胃炎はFDを診断する際に除外すべき器質的疾患ですか?)
3. FDと逆流性食道炎との併記は可能ですか?(逆流性食道炎はFDを診断する際に除外すべき器質的疾患ですか?)
4. 内視鏡検査以外の方法でFDを診断できますか?また他の施設で器質的疾患を除外した患者もFDと診断できますか?
5. FDとH.pylori感染胃炎との併記は可能ですか?(H.pylori感染胃炎はFDを診断する際に除外すべき器質的疾患ですか?)
6. 内視鏡検査等で何らかの所見(びらん、発赤、潰瘍瘢痕等)が認められた場合にはFDと診断できないでしょうか?
治療について
7. FDに対する治療を開始する際、診療録の摘要欄に検査年月日の記載が必要ですが、処方を継続する場合には毎月記載する必要がありますか?
8. FDに対する治療を一旦中断して再投与する場合、再度器質的疾患除外のための内視鏡検査が必要ですか?
9. FDと診断された患者に、PPIや消化管運動機能改善薬を使用することは可能ですか?
10. ガイドラインには4週間を目途に機能性ディスペプシア疑いとして初期治療(薬物療法)を実施しても良いことが記載されていますが、FD診療時に疑い病名で薬物療法を実施することは可能ですか?
11. FD診断時に超音波検査やCT検査は必要ですか?

診断について

1. 内視鏡検査等の実施時期は、いつの時点までが有効ですか?
A.『内視鏡検査施行間隔は少なくとも1~2年は許容されると考えられます』
H.pylori感染患者に対する除菌療法に際しての内視鏡検査は、厳密に胃癌を排除する必要があるため、6か月という期間が日本消化器病学会Q&Aにおいて推奨されています。一方、ガイドラインにおいてFDは「症状の原因となる器質的,全身性,代謝性疾患がないのにも関わらず,慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患」(CQ1-2)と定義されており、FDの診断においては症状が器質的疾患に由来するものではないことを確認することを目的に検査を実施します。もちろん、内視鏡検査は治療を開始する診断時点が原則ではありますが、FDは慢性的な経過をたどる疾患の為、一度症状が器質的疾患によって生じているものでないことを確認していれば、この患者さんの症状は器質的疾患に由来するものでない可能性が高く、内視鏡を頻繁に行う意義は少ないと思われます。このため現在の胃癌検診間隔を鑑みても、少なくとも1~2年は許容されると思われます。もちろん警告徴候を有する場合など、リスクが高いと判断されるケースでは、改めて内視鏡検査を実施することは必要であると思われますが、FD患者には癌や潰瘍のリスクの低いピロリ陰性者や比較的若い年齢層の患者も多いので、FD確定診断や投薬のために一律に頻回の内視鏡検査を行うことは回避すべきです。
2. FDと慢性胃炎との併記は可能ですか?(慢性胃炎はFDを診断する際に除外すべき器質的疾患ですか?)
A.『FDと慢性胃炎の病名併記は可能です』
ガイドラインでは、現状の慢性胃炎とFDの関係について「FD患者の多くはこれまで慢性胃炎として診断、治療されてきたが、FDは症状により定義される疾患であり、両者は同一のものではない」(CQ1-3)とされているので、両疾患が合併することは医学的には当然のことです。すなわち、わが国の診療現場で頻用されている慢性胃炎とFDとは異なる疾患と考えられ、さらに慢性胃炎を治療してもディスペプシア症状が残る場合があるためこの両者の病名は併記できて当然と言えます。
3. FDと逆流性食道炎との併記は可能ですか?(逆流性食道炎はFDを診断する際に除外すべき器質的疾患ですか?)
A.『FDと逆流性食道炎の病名併記は可能と考えられます』
一般に逆流性食道炎はしばしばディスペプシア症状を呈することが知られています。逆流性食道炎は器質的疾患ですが、プロトンポンプ阻害薬(PPI)で粘膜障害が治癒してもディスペプシア症状が残る場合も少なくありません。そのような患者さんは逆流性食道炎とFDを併発していると考えられることから、学会の見解としては保険診療上も2つの病名の併記は可能と思われます。
4. 内視鏡検査以外の方法でFDを診断できますか?また他の施設で器質的疾患を除外した患者もFDと診断できますか?
A.『上部消化管造影検査などによって診断することも可能です』
ガイドラインにおけるFDの診断方法(CQ 3)では内視鏡検査およびそれ以外の画像検査を行うことが推奨されています。わが国において保険承認されたにFD治療薬の添付文書には『上部消化管内視鏡検査等により、胃癌等の悪性疾患を含む器質的疾患を除外すること』となっており、一般的には器質的疾患の除外のために必要な検査とは内視鏡検査または上部消化管レントゲン検査と考えられます。また定期健診や人間ドック、他施設で行った内視鏡検査や上部消化管造影検査でも勿論可能ですが、これらに関しては、検査の日時と所見を診療録の摘要欄に記載することが必要です。
5. FDとH.pylori感染胃炎との併記は可能ですか?(H.pylori感染胃炎はFDを診断する際に除外すべき器質的疾患ですか?)
A.『FDとH.pylori感染胃炎との病名併記は可能です』
H.pylori感染胃炎はピロリ菌による慢性炎症であり、症状によって規定されるFDとは異なった概念の疾患です。H.pylori胃炎によるディスペプシア症状は除菌によって改善しますが、その判定には6~12か月を要します。除菌治療を行うためには、H.pylori感染胃炎の保険病名が必要ですので、その間は両者を併記し経過観察をすることになります。除菌によって症状が消失した場合には、ディスペプシア症状がH. pylori胃炎によると判断し、機能性ディスペプシアの保険病名を中止するとよいでしょう(このような場合、「H. pylori関連ディスペプシア」と呼ぶことが提唱されています)。ただし、除菌治療が成功し、H.pylori胃炎が治癒してもディスペプシア症状が残存することが多いことが知られています。この場合にはH. pylori感染症の保険病名を「確定病名」から「治癒病名」に変更し、ディスペプシア症状はH. pylori胃炎ではなく、FDによるものと判断し、FDが確定病名となります。
6. 内視鏡検査等で何らかの所見(びらん、発赤、潰瘍瘢痕等)が認められた場合にはFDと診断できないでしょうか?
A.『内視鏡検査等でびらん、発赤、潰瘍瘢痕等の所見が認められた場合でもFDと診断できます』
医学的には、びらん、発赤、潰瘍瘢痕等の所見と症状の関連は強くないことが一般的に知られていますので、症状を説明しうる疾患とは考えられません。ディスペプシア症状を呈する患者さんに実施した上部消化管内視鏡検査等でこれらの所見が認められても、症状の原因となる器質的疾患(胃癌や消化性潰瘍など)とは言えないため、FDと診断することは可能です。

 

治療について

7. FDに対する治療を開始する際、診療録の摘要欄に検査年月日の記載が必要ですが、処方を継続する場合には毎月記載する必要がありますか?
A.『毎月記載する必要はありません』
2014年10月10日厚生労働省保険局医療課発出の事務連絡において、「検査年月日のレセプト摘要欄への記載は実施月のみで差し支えない」との見解が発せられています。
8. FDに対する治療を一旦中断して再投与する場合、再度器質的疾患除外のための内視鏡検査が必要ですか?
A.『内視鏡検査は必要ありません』
FDは慢性的な経過をたどる疾患ですので、薬物治療を中断して、経過観察中に症状が再燃のために治療を再開する場合には再度の内視鏡検査は不要と思われます。しかし、FDの治療により『治癒』として治療を中止し、再度症状が出現した際に治療を再開する場合には、保険診療上、再度の内視鏡検査が必要となります。
9. FDと診断された患者に、PPIや消化管運動機能改善薬を使用することは可能ですか?
A.『FDという保険病名ではPPIやアコファイドを除く消化管運動機能改善薬を使用することは出来ません』
ガイドラインにおけるFDの治療(CQ 4-6からCQ 4-11)では、臨床研究結果を基にしてPPIや消化管運動改善薬など多くの薬剤がFDに対する有用性が示されています。しかし、わが国の保険診療制度においてFDに対して保険承認されていない薬剤(PPIなど)をこの疾患に対して使用することはできません。しかし、逆流性食道炎や慢性胃炎の診断名を有する患者さんに対しては、それぞれの疾患に対して承認されている薬剤を使用することは可能であり、FDとこれら疾患との病名併記は認められると考えられます。
10. ガイドラインには4週間を目途に機能性ディスペプシア疑いとして初期治療(薬物療法)を実施しても良いことが記載されていますが、FD診療時に疑い病名で薬物療法を実施することは可能ですか?
A.『保険診療上、可能ではありません』
ガイドラインで示されているフローチャートでは、「内視鏡検査を施行できない場合にFD疑いとして4週間の経過観察ないしは治療を開始してもよい」とありますが、わが国の保険診療では「疑い病名」に対する治療は承認されていないので、「FD疑い」での治療は不可能です。
11. FD診断時に超音波検査やCT検査は必要ですか?
A.『必ずしも必要ではありません』
ガイドラインにおけるFDの診断方法(CQ 3-1, 3-2)では内視鏡検査およびそれ以外の画像検査を行うことが推奨されています。しかし、わが国において保険承認されたFDの条件として「上部消化管内視鏡検査等により、胃癌等の悪性疾患を含む器質的疾患を除外すること」となっており、一般的には器質的疾患の除外のために必要な検査は内視鏡検査または上部消化管レントゲン検査と考えられ、保険診療上はその他の画像検査は不要です。しかし、臨床的に症状の原因として肝胆膵疾患を疑う場合には、症例に応じて腹部超音波やCT検査を施行すべきと思われます。

ページトップへ