肝がんに対する複合免疫療法
肝がんの治療には、手術、ラジオ波焼灼術(RFA)、経カテーテル肝動脈化学塞栓術(TACE)、薬物療法など、様々な方法があります。肝臓の機能やがんの大きさや数などを考慮して治療法が選ばれますが、近年、特に進展が著しいのが進行肝がんに対する複合免疫療法です。
肝臓の機能が保たれているものの、肝がんが他の臓器に転移している場合や、門脈や胆管などの脈管に広がっている場合、また経カテーテル肝動脈化学塞栓術(TACE)が適応とならない多発性の肝がんに対しては、薬物療法が行われます。現在の薬物療法では免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬が用いられ、その中でも特に、2種類の薬剤を組み合わせた複合免疫療法が第一選択として推奨されています。現在、保険適用されている複合免疫療法には2種類あり、一つはアテゾリズマブとベバシズマブの組み合わせ、もう一つはデュルバルマブとトレメリムマブの組み合わせです。
アテゾリズマブは免疫のブレーキを外し、免疫細胞(Tリンパ球)ががん細胞を攻撃しやすくする薬です。ベバシズマブは、がん細胞の周囲にある免疫の働きを抑える環境に作用し、Tリンパ球がより活発に働けるようにします。がん細胞は免疫の攻撃を逃れるために免疫抑制性の物質を多く作りますが、ベバシズマブはそれを抑え、免疫の力を最大限に引き出します。一方、デュルバルマブは免疫細胞ががんを認識・攻撃しやすくする薬で、トレメリムマブは免疫のスイッチを強く押し、がんへの攻撃をより長く続けられるようにします。この2つの組み合わせも、免疫の働きを強める治療法です。
複合免疫療法は高い治療効果を示していますが、治療に伴う副作用にも注意が必要です。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも免疫が作用することで、免疫介在性有害事象と呼ばれる副作用を引き起こすことがあります。主なものとして、間質性肺疾患、大腸炎、甲状腺機能低下症、肝障害、発疹などが挙げられ、全身のあらゆる臓器に影響が及ぶ可能性があります。そのため、治療を受ける際には副作用を適切に管理し、必要に応じて早期に対応することが重要です。
進行肝がんに対する複合免疫療法は、治療の選択肢を大きく広げ、より多くの患者さんに希望をもたらしています。今後も新たな免疫療法の開発が進み、さらに効果的で副作用の少ない治療法の登場が期待されます。治療の進歩により、一人ひとりの病状に応じた最適な治療が選択できる時代が、確実に近づいています。