一般のみなさまへ

健康情報誌「消化器のひろば」No.19-4

BRCA変異の薬

BRCA変異の薬

近年、BRCA1あるいはBRCA2の変異が、遺伝性乳がん卵巣がん症候群として乳がん、卵巣がんの危険因子であることが知られてきました。予防的切除や遺伝学的検査が保険適用となり、さらに、BRCA1/2の遺伝子変異を有するがんでは、抗がん剤として白金系薬剤や、PARP阻害薬が有効であることが知られています。

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BRCA1/2変異とは

 1990年代にBRCA1、BRCA2遺伝子変異が同定され、乳がん、卵巣がんの発症確率が約3割から8割と高率であることが知られています。2013年にはアメリカの女優、アンジェリーナ・ジョリーさんの告白で、社会にも遺伝学的検査、予防的切除の必要性が注目されました。BRCA1/2遺伝子変異からは、乳がん、卵巣がん以外に、前立腺がん、膵がんも発症リスクがあることが報告され、膵がん患者さんの約5%にBRCA1/2遺伝子変異を認めるとされています。

抗がん剤の作用機序

 遺伝子配列の一本鎖切断を修復する機能をPARPが持っていますが、この機能が阻害されると遺伝子配列の二本鎖切断が生じます。通常のがん細胞は二本鎖切断を修復する機能を有しており、細胞自体が生存しますが、BRCA1/2遺伝子変異のあるがん細胞では遺伝子二本鎖切断が修復されず、合成致死と呼ばれる細胞死が誘導されます。この機序によりPARPの機能を阻害するPARP阻害薬(オラパリブなど)が、抗がん剤になりえます。また白金系薬剤(シスプラチンやオキサリプラチン)の遺伝子合成阻害作用は、PARPと同様に遺伝子修復機能を阻害し、BRCA1/2遺伝子変異のあるがん細胞で細胞死を誘導することが知られています。

POLO 試験より

 BRCA1/2遺伝子変異を有する進行膵がんで、かつ白金系薬剤(主にオキサリプラチン)の化学療法が16週以上継続した患者さんに対し、オラパリブ維持療法とプラセボ治療を比較した臨床試験の結果が海外で報告され、オラパリブ維持療法の腫瘍増悪までの時間の延長効果が証明されました。この結果により、海外で、BRCA1/2遺伝子変異を有する進行膵がんに対して、オラパリブ維持療法が標準治療として行われ、我が国でも、2020年12月同薬剤が保険適用になりました。進行膵がんと診断された場合、BRCA 遺伝子変異の有無を検査し、陽性であった場合は、白金製剤による化学療法を施行。さらに16週の病勢制御が可能であった場合には、オラパリブによる維持療法に移行することが行われ始めています。またBRCA遺伝子変異が陽性であった場合には、遺伝カウンセリング外来の受診が推奨されます。

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神奈川県立がんセンター
消化器内科(肝胆膵)
部長

上野 誠

神奈川県立がんセンター消化器内科(肝胆膵)部長 上野 誠
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