ダルバドストロセル
クローン病(以下、CD)の痔瘻*1(じろう)に対する基本的な治療は、瘻孔*2(ろうこう)に医療用のチューブを通して膿を出やすくするシートン法に代表される外科治療と、抗菌薬や生物学的製剤などの薬物療法が行われています。ダルバドストロセルは瘻孔の原発口および瘻管内に直接注入して炎症を抑え、瘻孔を治療する製品です。生物学的製剤を用いた治療を行っても効果が十分に出なかったCDに伴う痔瘻の患者さんに適用となります。
ダルバドストロセルは健康な成人の皮下脂肪から分離した幹細胞をもとに作られます。幹細胞とは体の組織や臓器を作るもとになる細胞のことです。幹細胞は分裂して自分と同じコピーを作成したり、身体の様々な組織に変化する能力を持っています。ダルバドストロセルは免疫を調整する機能のある間葉系幹細胞と呼ばれるものです。痔瘻では便の付着や細菌感染により慢性的に炎症が起きています。特にCDでは、図に示すような膿瘍(膿のたまり)や複数の2次口を作るような複雑痔瘻と呼ばれる状態を来しやすい特徴があります。ダルバドストロセルを投与すると、幹細胞が活性化して免疫を抑制し炎症を抑えることができます。炎症を抑えることで瘻孔の治癒が促されます。
ダルバドストロセルの対象となるのは非活動期、または軽症の活動期のCD症例です。詳細は日本大腸肛門病学会HPの「適正使用指針」をご参照ください。
投与の大まかな流れについて説明します。まず瘻孔や膿瘍の状態をMRI検査などで確認します。ダルバドストロセル投与の2~3週間前に、全身麻酔もしくは腰から下の麻酔で1回目の手術を行います。瘻孔の掻爬を行い悪性所見がないことを確認するためです。問題なければダルバドストロセル投与のための2回目の手術を行います。手術は約30分程度で終了します。
CDの痔瘻でお悩みの患者さんは多く、おしりの病変はデリケートな問題で日常生活にも大きな影響がありますが、あくまでもCDの炎症がコントロールできている患者さんが対象です。まずはしっかりと内科治療でCDの炎症をコントロールすることが重要です。
*1 痔瘻:肛門管の原因となっている小さな穴(肛門陰窩)と肛門周囲の皮膚の間に形成された管のこと(痔瘻は瘻孔に含まれる)。
*2 瘻孔:腸管と腸管、膀胱、皮膚などの間に形成された管のこと。