一般のみなさまへ

健康情報誌「消化器のひろば」No.24-5

肝線維化マーカー

 皆さんは「肝硬変」という病気をご存じでしょうか。文字通り肝臓が硬くなってしまう病気で、実際に超音波やカメラ(腹腔鏡といいます)で肝臓の形を観察してみると、本来つるつるとした肝臓の表面が、でこぼこ、ごつごつとした姿に変わってしまっています。ウイルス感染による炎症やアルコールなどによる肝臓へのダメージが長年続くと、「線維化」と呼ばれる傷跡が肝臓の組織の至るところに出現し、肝硬変になってしまうのです。肝硬変が進行してしまうと、肝機能が落ちて、目が黄色くなったり(黄疸)、おなかに水がたまったり(腹水)することがあり、すぐには元に戻りません。

 そうなる前に、肝臓が硬くなり始めていることを早めに察知することが重要です。肝線維化を調べる検査として、肝臓に直接針を刺して調べる肝生検が有用ですが、痛みを伴うのが欠点です。最近、超音波を使って体に負担をかけずに肝臓の硬さを数値化する「超音波エラストグラフィ」と呼ばれる検査が普及してきました。

 ほかにも、わたしたちは血液の「肝線維化マーカー」を使って、肝臓が硬くなり始めていることを早めに察知しようとします。病院で調べられる血液肝線維化マーカーの代表的なものに、ヒアルロン酸、コラーゲン(プロコラーゲンIII ペプチド、IV型コラーゲン、IV型コラーゲン7S)があります。

 最近、新しい血液肝線維化マーカーとして“M2BPGi [Mac-2結合蛋白(M2BP)糖鎖修飾異性体]”(図)が登場しました。M2BPGi は名古屋市立大学(現熊本大学)田中靖人教授らにより開発され、2015年から保険で使えるようになりました。血液中のヒアルロン酸、コラーゲン検査は肝臓だけでなく、体のほかの場所の線維化の影響を受けますが、M2BPGi は肝生検の結果との良好な一致率を示します。さらに、将来の肝細胞がんの発生も予測することができるという報告もあり注目されています。

 肝炎や肝硬変は、かなり進行してから症状が出始めることが多く、早めの検査が必要です。2009年に「肝炎対策基本法」が制定され、各都道府県に「肝疾患診療連携拠点病院」が選定されました。全国的にも消化器病専門医、肝臓専門医の数も増えてきました。検査をご希望の方は、お近くの医療機関や主治医にお問い合わせください。

図 M2BPGi 測定


 

熊本大学大学院 生命科学研究部
生体機能病態学分野 消化器内科学講座 診療講師

長岡 克弥

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