一般のみなさまへ

健康情報誌「消化器のひろば」No.25-2

 ずばり対談 健康の伝え方―『きょうの健康』番組作りへの思い ―フリーアナウンサー 岩田まこ都/JA尾道総合病院 消化器内科 花田敬士

フリーアナウンサーの岩田まこ都さんはNHK『きょうの健康』のキャスターを務めて8年目。もうすっかり番組の顔となり、健康関連のイベントでも幅広く活躍しておられます。一方、花田敬士先生は膵臓がんの専門医として、また膵臓がん早期発見のための検診「尾道方式」の発案者として、これまでに3回番組に出演しました。難しい最新医学の話をわかりやすく伝える岩田さんの「話し方」の妙、番組スタッフの精緻な台本作りに感銘を受けたという花田先生が聞き手に回り、岩田さんにお話を伺います。

(2024年4月22日収録)

先生方も同じ人間なのだ、と伝えたい

花田
『きょうの健康』に私が初めて出演させていただいたのは2017年1月でした。収録は年末で、ちょうど『NHK紅白歌合戦』のリハーサルが行われていました。

岩田
局じゅうがバタバタしているときでしたね(笑)。

花田
わずか15分の番組を作るのにスタッフの皆さんが大変な労力を注ぎ込まれて、下準備をしっかり行ってきちんとエビデンス(科学的根拠)のある事実だけを伝えておられることに感銘を受けました。メールで台本作りのやりとりをさせていただく中で、事実を正確に、わかりやすい言葉で伝えるということが私自身の勉強にもなって、患者さんにお話しする場合の参考にさせていただいています。そこで、あらためてお聞きしたいのですが、岩田さんは視聴者の方にどんなふうに「伝える」工夫をなさっているのですか。

岩田
皆さんに間違いのない事実をお伝えするということは、当番組が始まって以来57年間、番組の芯として引き継がれていると思います。時代によっても異なりますが、今は「わかりやすく、ちょっと楽しく」―― ご高齢の視聴者にもわかりやすいよう、ゆっくりしゃべり、テロップも大きめの文字で出すようにしていますね。そして、がんや辛い経過の病気がテーマでも最後には希望が持てるような、笑顔になっていただけるような番組を目指しています。もう一つ、私が心がけているのは、ゲストの先生方の素顔を垣間見られるようにしたいということです。医師は患者さんにとって気軽に話をするにはまだまだ遠い存在です。「セカンドオピニオンを受けたい」なんて、頑張らないとなかなか切り出せません。そこで、先生方も同じ人間であることが伝わるといいなと常々思っています。

花田
なるほど。時には、がんが進行してしまってもう切除できない場合にどうするか、といった厳しい話題を取り上げることもありますね。

岩田
たとえ厳しい病気であったとしても、ゲストの先生からは何か患者さんに寄り添って声をかけるようなことを言ってほしい。ですから収録のときには最初に先生方に「私を先生の患者だと思って話しかけてくださいね」とお願いしています。花田先生はとてもお上手で、初回から私たちに話しかけるように話してくださいました。収録もとても速くて、番組と同じ15分くらいで撮り終わりましたね。

花田
スタジオに行ったら「もうリハーサルは要らないから、このままやりましょう」と言われて、ワンテイクで終わってしまいました。

岩田
では、次は台本はなしでいいですか(笑)。

朝食抜きが、胃の不調の原因になることも

花田
ところで岩田さんご自身は、気になるおなかの不調はありますか。

岩田
胸のつかえが気になって、勝手に逆流性食道炎ではないかと思い、しばらく市販の胃薬を飲んだのですがあまり改善されなくて、病院で内視鏡検査(胃カメラ)を受けました。「逆流性食道炎ではないけれど、少し胃酸が逆流している傾向がある」とのことでした。食事の影響でしょうか。

花田
岩田さんのようにお仕事が忙しい方は、心身のストレスから胃液の分泌量が多くなりやすいので、増えた胃液を酸逆流と感じてしまうこともあります。バランスが良く規則正しい食事をとり、よく睡眠をとるなど1日の生活リズムを整えるだけでも、酸逆流が減る方もいらっしゃいます。

岩田
私は健康番組を続けているので、皆さんからすごく健康的な生活をしていると思われがちですが、実はとても食事の好き嫌いが多く、野菜があまり好きではないのです。そして朝食を食べません。

花田
意外です(笑)。それなら、朝食を食べないことが酸逆流の原因かもしれません。前の晩、夜9時に食事が終わったとして、朝食を抜くと12時間以上ずっと空腹が続きますね。その間、胃液が出続けることになります。食事をとれば胃液の酸が中和され、胃酸の濃度はすぐに落ちます。特に牛乳やアルカリ性の食品をおすすめします。

岩田
お薬以前に朝食をとることが大事なのですね。わかりました(笑)。逆に先生はご自身の健康のために何かされていますか。

花田
毎朝5時に起きて、ウォーキングをするようになりました。朝3km、夜3kmのウォーキングを続けた結果、2年前に比べて体重は5㎏減り、35年前のスーツが着られるようになりました。

岩田
すばらしい! 成果が目に見えるのは嬉しいですよね。何かきっかけがあったのですか?

花田
メタボリックシンドロームの予防もありますが、犬の散歩ですね。体重が6kgくらいある規格外のトイプードルが我が家に来てくれて、朝はワンちゃんが散歩に行こうと起こしに来ます。強制的に散歩に行かなければならなくなって、どんなに忙しくても朝晩の散歩は欠かせません。

岩田
私は運動も好きではないのですが、やはり豆柴を飼い始めてからは朝晩、雨でも雪でも1日30分は歩いています。でも、先生の毎日6kmはすごいです。

“いつもと違う”と思ったらすぐ受診

岩田
これまで、『きょうの健康』でも多くのがんを取り上げてきて思うことは、がん検診の大切さです。私の友人でも、定期的ながん検診の機会がある会社員は良いのですが、専業主婦の友人たちはあまり受けていないようです。せっかく自治体からお知らせが届いても行ってくれないのが残念です。

花田
おっしゃる通りがん検診の受診率は低いですね。岩田さんご自身はどうされていますか?

岩田
私は年1回人間ドックに行っています。少し異常値が出たりして、経過観察が必要な項目は再検査も受けています。実は家族がほぼ全員様々ながんになっているので、私もいつかは必ずがんになるだろうと……。ですから、がん検診は必ず受けようと思っています。そして検査結果が良好であっても、自分の身体の変化は自分でしかわからないので、“いつもの自分ではないかも”と思うことがあったらすぐ受診するようにしています。数値だけではなく、自分の感覚も大事にしています。

膵臓がんの危険因子を知ってほしい

花田
『きょうの健康』では消化器の病気に関しても多くのテーマを扱ってくださっています。何か特に印象に残っているエピソードはありますか?

岩田
花田先生が始められた、膵臓がん早期発見の取り組みですね。膵臓がんの5年生存率が一般的には9%なのに尾道市では20%に上昇したなんて、スタッフと「すごくない? こんなに上がることって本当にあるの?」と話していました。

花田
おお、それはありがとうございます。膵臓がんの危険因子を持つ方に地域の診療所やクリニックで腹部エコー(超音波)などの検査を受けていただく取り組みを尾道市から始めています。

岩田
それが「尾道方式」と呼ばれていて、だんだん広がっている経過も私たちは知っています。こんな素晴らしいことをなぜ全国でやらないのかと思うのですが。

花田
おかげさまでこの5年ですごく広がり、今は全国約50か所で実施されています。ただ、膵臓がんは国が制度として行う「対策型検診」には含まれていないので、大きな都市圏で普及させるのは難しいのです。そこで、膵臓がんの危険因子を知っていただくことが大事かと思います。家族にがんの方がいらっしゃることもその一つですが、喫煙、肥満、大量にお酒を飲む、糖尿病、慢性膵炎、これらを2つ以上併せ持つ方は要注意であることがわかっています。がんになってしまった後の診断法や治療法に目が行きがちですが、やはり病気にならないようにするのが一番であり、予防医学をもっと広げていくべきだと考えています。

岩田
がんパネル検査のように、多くの遺伝子を一度に調べて将来のがんのリスクを知る方法がありますが、受けたほうがいいのでしょうか。

花田
岩田さんは知りたいですか。

岩田
私は知りたいです。自分が知っておくことで、子供も気にかけるようになり、予防ができていくと思います。

花田
一方では知りたくない、知るのが怖い、家族にも負担がかかると考える方もいらっしゃいます。岩田さんがおっしゃるように、遺伝子検査の結果を自分自身のがんの早期発見や、次世代の方のがん予防にうまく使うような風潮が生まれれば良いと思いますが、まだ全額自己負担となる検査も多いですし、将来的な課題といったところでしょうか。

岩田
私は17~18年くらい前にも『きょうの健康』に出演していた時期があるのですが、その時代に比べて今は、遺伝子検査の普及でがん治療が個別治療になり、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などの選択肢も増えました。外科と内科の先生も近くなり、手術と薬物療法や放射線療法がつながり、お医者さんだけでなく、看護師さんや臨床検査技師さんなどがチームで関わるようになり、ずいぶん変わったと感じています。

花田
そうですね。今は医療の大きな転換期に来ています。おそらくこの先3~5年くらいの間には、一人ひとりの患者さんの病気に対してどうすれば最善の対応ができるか、診療科の枠を外してもっと柔軟に考える時代になるでしょう。遺伝子検査の結果をどう使うかも重要なカギとなってくると思います。今日は健康の伝え方のことから、がん予防、現在の医療についてまでいろいろなお話を聞かせていただきました。これからも、ぜひご自身の健康にも気をつけて、視聴者の皆さんに有益な情報を届けてください。

岩田
ありがとうございます。朝食を食べるようにします(笑)。

花田
本日はありがとうございました。

※詳しくはJA尾道総合病院HP「膵がんプロジェクト」参照
https://onomichi-gh.jp/cancer_med/pancreatic_cancer/

構成・中保裕子

プロフィール

岩田 まこ都(いわた まこと)
千葉県出身。フリーアナウンサーとして、『きょうの健康』(NHK)のキャスターや『今日のメンタルヘルス』(放送大学(BSキャンパス))や『運動と健康』(同局)の聞き手などを担当。趣味は香道とホットヨガ。

花田 敬士(はなだ けいじ)
1963年広島県出身。1988年に島根医科大学卒業後、1996年に広島大学大学院医学系研究科博士課程内科系専攻修了。2021年よりJA尾道総合病院副院長・内視鏡センター長を務める。膵臓がんの早期発見を目指して、2007年より「膵癌早期診断プロジェクト」を立ち上げ、膵臓がん患者の生存率の向上に取り組んでいる。2023年に第75回保健文化賞受賞。

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