このコーナーでは、消化器の病気や健康に関する疑問や悩みについて、専門医がわかりやすくお答えします。
Q. 膵がんは遺伝しますか?
ほとんどの膵がんは「遺伝とは関係なしに発症する」と考えられていますが、5~10%の膵がんは遺伝性とされており、これは受精卵の段階で両親のどちらかから引き継いでいる体質に関わる遺伝子変異、この場合は一般の人よりも“膵がんにかかりやすい”体質が関連しています。特定の遺伝子変異(例:BRCA2, PALB2, CDKN2A/p16, LKB1/STK11, PRSS1, ATM,ミスマッチ修復遺伝子等)を認める場合は、膵がん発症のリスクが高い、ということがわかっています。最も頻度が高いのはBRCA2(膵がん患者の約5%)であり、乳がん、卵巣がん、前立腺がん等の発症にも関わっています。しかし、BRCA2の膵がん発症リスクはほかの遺伝子と比べて特段高いわけではなく、リスクが高いとされるSTK11やPRSS1やp16などは、頻度は膵がんの1%未満と非常にまれです。このような遺伝的要因で膵がんを発症するリスクの高い方の場合、膵がんの早期発見を目的としてMRI/MRCPや超音波内視鏡、血液検査を用いた定期的な検査(サーベイランス)を受けることが推奨されています。膵がんの家族歴や、膵がん以外にも卵巣がんや乳がん、前立腺がんの家族歴や既往歴がある場合は遺伝子検査を検討するのが良いでしょう。ただし、家族歴や既往歴がなくとも遺伝子変異がある場合もあり、米国のガイドラインでは膵がんと診断された方は皆さんに遺伝子検査を推奨しています。実際に陽性となる方は少ないことからどこまで実施すべきか議論のあるところですが、心配な方は遺伝外来などでご相談されると良いでしょう。