医療用麻薬
モルヒネに代表される医療用麻薬は、がんに伴う強い痛みに有効な鎮痛薬であり、より良い生活の質(QOL)を保つためには欠かせません。適切に用いれば身体に負担をかけることはほとんどありませんので、正しく理解して必要な際には躊躇せずに使ってみることをお勧めします。
医療用麻薬への誤解が根強い日本
最近、芸能人が麻薬の使用で逮捕される事件が相次ぎ、皆さんもあらためて麻薬の怖さを感じているのではないでしょうか。
ただ、本コラムでお伝えする「医療用麻薬」は、それらとは全く別もので、がんに伴いやすい強い痛みに対しては最も効果の高い薬として世界中で広く用いられています。
実は、日本は人口あたりの医療用麻薬の使用量が先進国の中でも極めて低く、長らく「痛みへの対処が遅れている国」という不名誉な状況が続いています。
医療用麻薬について正しい理解を
全く副作用がない薬は存在せず、医療用麻薬でも便秘、眠気、嘔気などが生じやすいですが、適切な対処でほとんどは解決できます。
古くから用いられているモルヒネは副作用が比較的生じやすいですが、最近は副作用が軽いタイプの薬も開発されています。
よく耳にする「麻薬中毒(依存)になる」「命を縮める」との噂は、数多くの研究で科学的には否定されています。
身近ながん患者さんが、医療用麻薬で治療を受けた際に「おかしくなった(言動がおかしい、幻覚を見る、など)」と感じた方もいるかもしれませんが、その多くは病気で衰弱した患者さんの大半で見られる「せん妄」と呼ばれる症状です。薬によるせん妄症状であれば、適切に対処すれば長く続くことはありません。
つらい症状はがまんせずに緩和ケアの専門家に相談を
痛みは、患者さんの生活の質(quality of life:QOL)を損ねる最大の要因とされ、つらい症状が続くと気分も落ち込み、充実した日々を過ごすことが難しくなります。
緩和ケアは患者さんのつらさに全般的に対処する医療であり、がんの治療と並行して行うのが世界の常識です。
全国の病院には「緩和ケアチーム」など緩和ケアの専門家がおりますので、痛みに限らず様々なつらさについて躊躇せずに相談なさってください。
その際に医療用麻薬をお勧めされた際には、どうか誤った先入観を持たずに用いてみるのが良いと思います。