胃がん治療は、以前は手術療法しかなく手術不能胃がんに対する治療は困難でした。しかし最近では、手術自体の進歩に加え、手術不能胃がんに対する有効な各種薬物療法の開発がなされ、その生存に大きく寄与できる時代となってきました。
胃がんは胃粘膜にできる悪性腫瘍です。原因はピロリ菌や塩分の取り過ぎなどが報告されています。その死亡数は、肺・大腸がんに次いで多く、年間約5万人の方が亡くなられています。しかし早期発見し治療すれば、比較的予後は良く治るがんでもあります。初期には症状が乏しいため、早期で見つけるためには、1〜2年ごとの内視鏡検査が推奨されています。ごく初期のものは内視鏡手術も可能であり、定期的な検査は有用です。進行の程度は内視鏡、CTなどの検査によりステージI 〜 IVに分類されます。ステージごとの治療を大雑破に言うと、ステージIIIまでならば手術を、ステージIVであれば転移があり手術不能と考えてその他の手段(薬物療法など)を検討します。手術も、従来はおなかを大きく開けて胃を切除していましたが、現在では腹腔鏡下切除術にて体への負担を減らした治療が主流となっています。しかし、ステージIII 以上の方は、切除できてもその半分以上が再発し、ステージIV患者さんと併せると、多くの方に抗腫瘍薬療法が必要になります。一昔前は、切除不能胃がんの薬物療法など効果はないと言われた時代もありました。その後多くの有効な薬剤が開発され、無治療だと生存期間中央値は3〜6ヶ月でしたが、最近の薬物治療を実施すると13ヶ月を越えるようになってきています。そのほとんどは外来での通院治療で可能です。薬物療法の基本となる抗がん剤としては5FU系、プラチナ系、タキサン系、イリノテカン、最近ではトリフルリジン・チピラシルという新薬も登場しています。また近年ではラムシルマブという分子標的薬も登場してきましたし、数年前に 日本人がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで脚光を浴びた免疫チェックポイント阻害薬が承認され薬物療法が大きく変化してきています。また胃がん患者さんの15〜20%に、その腫瘍細胞にHER2(ハーツー)タンパクという特殊な蛋白が過剰に発現している方がおられますが、トラスツズマブというHER2蛋白の働きを阻害する薬剤を用いることでより良い効果が期待され、従来の標準的治療による生存期間を大きく越えるようになってきています。またHER2陽性でトラスツズマブの効果がなくなった方に対して、抗体薬物複合体であるトラスツズマブ・デルクステカンが承認されさらなる生存延長が期待できるようになりました。上述のごとく最近では多くの有効な薬剤が開発されており、手術不能・再発転移性胃がんと診断されても簡単に諦めず、主治医とよく相談して治療に取り組んでいただければと思います。