FOCUS ロボット手術および外科手術の未来とは
手振れがなく細やかな手術が可能
急速に普及しつつあるロボット手術
内視鏡手術支援ロボットは、胸腔鏡・腹腔鏡手術の欠点(直線的な手術器具、手振れ、手術器具の可動域制限など)を克服するために開発されました。現在主流となっている内視鏡手術支援ロボットは、2000年頃より登場した米国Intuitive Surgical社のda Vinci Surgical System(ダビンチ)です。ロボットを操作するのは外科医ですが、直接体内に触れるのは機械であるため手振れがほとんどなく、人間の手のように関節機能がある手術器具を用いることが可能です。そのため、内視鏡手術支援ロボットを使用した手術(ロボット手術)では、これまでの胸腔鏡・腹腔鏡手術よりもさらに複雑で細やかな手術手技が可能となり、より安全・確実かつ患者さんの体への負担の少ない手術を実現できる可能性を秘めています。術者にとっての利点も大きく、疲れにくく設計された「サージョンコンソール」と呼ばれる操縦台に座って操作できます。また、胸腔鏡・腹腔鏡手術と比べて操作が容易で、より早く手技に習熟できる可能性も秘めています。
日本では2009年にダビンチが薬機法承認を受け、2012年に泌尿器科領域でロボット手術の保険診療が可能になりました。消化器外科領域では、2018年4月より、食道、胃、直腸、2020年には膵臓、2022年には肝臓のロボット手術が保険適用となり、ロボット手術は急速に日常診療に浸透しつつあります。ダビンチのほかにも、2021年8月に日本のメディカロイド社で開発されたhinotori™サージカルロボットシステムが泌尿器科領域で使用できるようになりました。消化器外科領域のhinotori™使用は、現在、独立行政法人医薬品医療機器総合機構で審査中です。
ロボット手術が保険収載される際、日本外科学会、日本消化器外科学会、日本内視鏡外科学会などが中心となって指針等が整備され、その指針に基づいた導入が日本全国で進められました。その結果、食道、胃、直腸領域における全国調査では、これまでの胸腔鏡・腹腔鏡手術と遜色のないことが報告され、大きな事故等がなく、安全に導入・普及してきていることが示されました。ロボット手術の施行件数が多い先進的な施設では、これまでの胸腔鏡・腹腔鏡手術よりも合併症が少なく、がんの治り具合も良くなる可能性があるという驚くべき成果が報告されています。遠隔ロボット手術の実現を目指した研究も徐々に成果を上げており、今後のさらなる発展が期待されます。
その一方で、ロボット手術を行える施設ならびに術者が現時点ではまだ限られている点が課題です。また、ロボット本体のみならず、ランニングコストや消耗品等も高価であり、病院にとっての経済的負担が大きいことも問題です。これらの課題が解決されていくことで手術を受けられる患者さんへの恩恵がさらに大きくなっていくことを切に願うばかりです。