近年、本邦においてもがん遺伝子パネル検査(がんゲノムプロファイリング検査)が保険適用となり、個々の患者さんのがんの遺伝子情報を調べて最適な個別化医療を行う「がんゲノム医療」が日常診療でも行われています。従来のがん遺伝子パネル検査では検査を行うためには腫瘍組織(がんの生検検体や手術検体)が必要とされていましたが、特に膵がんや胆道がんなど遺伝子検査用の検体採取が困難ながん種においては、検査を受けたくても検体がないために断念せざるを得ない場面に多く直面してきました。そこで今回、新たな検査手法として血液、尿、胸腹水などのリキッドバイオプシー検査用検体(液性検体)に含まれるがん細胞、がん細胞由来のDNA、がん細胞が分泌する膜小胞(エクソソーム)などを用いた遺伝子診断技術が開発されました。中でも現在、臨床応用が最も進んでいるのが血液に漏れ出た血中循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)を対象としたリキッドバイオプシー検査で、実際にFoundationOneLiquid CDx検査が本邦においても現在保険診療下で行われております(もう一つのリキッドバイオプシー検査のGuardant360 CDx検査に関しても今年度中に保険適用見込み)。
血液検体を用いたリキッドバイオプシー検査では専用の採血管を使用しますが、通常の採血検査と同様のわずかな採血量(8.5~10mL×2本)で、低侵襲かつ簡便ながん遺伝子診断が可能となっています。リキッドバイオプシー検査の利点として、まず挙げられるのが、結果が出るまでの時間(turn-around time)が早いこと(通常は約2週間)になります。従来の腫瘍組織を用いた検査ではturn-around timeが1~2カ月かかっていましたが、リキッドバイオプシー検査では結果が出るまでの時間を短縮することで治療タイミングを逃さず早期に治療介入ができるという利点があります。また、リキッドバイオプシー検査では診療用の残余検体など既存の腫瘍組織検体を用いる検査とは異なり、検体採取時点(採血時点)における最新のがんの遺伝子情報が取得可能なため、リアルタイムでの病態把握が可能という利点があります。一方、リキッドバイオプシー検査の欠点としては、腫瘍組織検体を用いた検査に比べると感度が低いことが知られており、体内の腫瘍量が十分にないと血中循環腫瘍DNAが検出されず、正確な遺伝子診断ができません。
現行では保険診療下でのがん遺伝子パネル検査は患者さん1人1疾患につき生涯1回限りしか実施できないため、がん遺伝子診断を行う際に従来の腫瘍組織検体を用いた検査、リキッドバイオプシー検査のいずれを行うべきかに関しては、上記内容を踏まえ、主治医の先生と十分に相談してから検討していただく必要があります。