近年、医療現場では人工知能(AI)が注目を集めています。特に内視鏡分野では、AIを用いた診断支援システムの開発が活発化しており、大腸内視鏡検査におけるAIの活用は、私たちの健康を守る革新的な技術として期待されています。
その中でも、国立がん研究センター中央病院がNECと共同開発したWISE VISIONTMは、大腸内視鏡AIの新たな可能性を示すシステムです。これは、表面型腫瘍の画像を大量に学習させているので、陥凹型がんやLST-NG(側方発育型腫瘍)といった、発見が難しい表面型腫瘍の検出に高い威力を発揮します(図)。従来、これらの表面型腫瘍は、内視鏡検査中に見落とされるケースも多く、早期発見が困難でした。しかしWISE VISIONTMは、表面型腫瘍の特徴を捉え、画像解析によって早期発見を支援します。具体的な例では、表面が平坦で隆起がわずかしかないLSTNGのような腫瘍は、医師の目では見逃しやすいですが、WISE VISIONTMはその特徴を捉え早期発見を支援します。ただCADx(診断支援)機能は承認されていませんが、近い将来的にはCADx機能も承認され、医師の診断をより的確にサポートするシステムとして、大腸がんの早期発見・治療に大きく貢献すると期待されています。
また、我々は昭和大学横浜市北部病院工藤進英先生グループの共同研究にも参加し、オリンパスのEndoBRAIN®の開発にも協力しています。これはAIを用いて内視鏡画像から病変を検出するだけでなく、病変の形状や大きさ、色調などの特徴を分析し、医師の診断をサポートするシステムです。
さらに、富士フィルムのCAD EYE開発における、国内3施設の臨床試験や東京慈恵会医科大学主導の、EIRL Colon Polyp共同研究に協力し、様々な大腸内視鏡AIの開発を進めてきました。
現在、当院では3社のAIを実際に臨床で使用しています。人間は疲れると病変の発見能力が低下するとされていますが、AIは疲れを知りません。そのためAIを活用することで、見逃しを防ぎ、より正確な診断が可能になると期待されています。一方、CADxのAIは、熟練医には効果的ですが、専門医レベルの診断にはまだ及ばないとされています。しかし、深層学習技術の進歩により、次世代のAIは専門医を超える診断能力を持つ可能性を秘めています。
消化器領域におけるAIは、診断だけでなく、生成AIを用いた内視鏡レポートの自動作成、病理診断におけるAI、早期がんの転移予測など、多くの分野での開発が期待されています。将来的には、内視鏡治療にも応用される可能性も考えられます。
AIは、内視鏡医のみならず患者さんにとっても有用なツールです。今後AIを有効活用し、より質の高い医療を提供していくことが重要です。