FOCUS 働き方改革とワークライフバランス
医師にとっても患者にとってもプラスになる働き方改革の実現を
最近、「働き方改革」や「ワークライフバランス」という見出しを頻繁に見かけるようになりました。従来、日本では長時間労働は勤勉の象徴とされてきました。しかし、その割には、1人あたりの労働生産性は先進国の中でも低く、効率の悪い働き方をしているといえます。さらに過重労働による「過労死」の実態が浮き彫りになり、国際労働機関からも過重労働を是正するよう求められています。
長時間労働は健康障害だけでなく、仕事と家庭の両立(ワークライフバランス)を困難にし、女性のキャリア形成や男性の家庭参加を阻む原因となっています。2018年7月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が公付され、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、公正な待遇の確保などが提示されました。
さて、国民の健康を支える医師は、他職種と比較しても抜きん出て長時間労働に従事しているのが実態です。その多くは病院勤務医で、特に20~30歳代の男女の医師と40歳代までの男性医師です。その要因は、昼夜を問わない救急対応、急変した患者さんの緊急対応、長時間の手術や外来診療に加え、ニーズに応じて時間外や休日にも出勤して医療を担うこともあります。また、医師の業務が多様化し、書類作成などの事務作業も増加しています。新しい医療技術の修得や医学知識の学修も求められます。しかし、このような長時間労働は医師の健康を損なうだけでなく、医療の質や安全の確保にも影響を及ぼす恐れがあります。
厚生労働省に「医師の働き方改革に関する検討会」が2017年8月に設置され、 緊急的な取り組みが提案されています。その一つに「タスク・シフティング」(業務の移管)の推進があります。検査や入院の説明、服薬指導、証明書や診断書作成などに費やす時間が増えていることから、医療全体の業務をスリム化し役割分担を明確にし、医師から他職種に業務をシフトするというものです。
また、女性医師は出産や育児などのライフイベントが重なり、診療継続やキャリア形成が困難になることが多い現状にあります。短時間勤務など多様で柔軟な働き方なども取り組みの中に提示されています。内閣府のワークライフバランス憲章には、「充実感を感じながら働き、責務を果たす一方で、家庭、地域、自己啓発にかかる個人の時間を持てる健康で豊かな生活ができるよう、社会全体で仕事生活の調和を実現していく」とあります。男女を問わず、自らのライフスタイルやライフステージの変化に合わせた働き方を選択できる環境整備が求められています。
医師の「働き方改革」を進めるには、医療を受ける患者さん側の関わりと理解が不可欠です。医療機関の適切な受診、複数主治医制、時間外診療など、医師側だけの努力では限界があります。医師側にも患者さん側にもプラスになるような働き方改革に向かうことが望まれます。