一般のみなさまへ

健康情報誌「消化器のひろば」No.19-5

 超音波内視鏡(EUS)は、その名の通り超音波(エコー)装置が備わった内視鏡です。消化管の中からその周りにある臓器を超音波観察するため、体表からの超音波検査と異なり、胃腸の中の空気や腹腔内の脂肪などの影響を受けることがなく、対象となる臓器の詳細な観察が可能です。消化管壁のすぐ向こう側にある膵臓や胆道(胆のう・胆管)の観察を得意としますが、そのほかにも、消化管の壁内に存在し、通常の内視鏡ではその詳細がわからない消化管粘膜下腫瘍の診断にも広く用いられています。EUSによる観察で、組織検査が必要と考えられる腫瘍などが見られれば、超音波内視鏡下穿刺吸引法( EUS-FNA)により細胞・組織を採取し,顕微鏡による病理診断を行います。胃や大腸の表面に存在する腫瘍であれば、通常の内視鏡で組織採取は容易に行えますが、消化管の外や壁内に存在する病変の組織を採取するにはEUS-FNAが必要となります。EUS-FNAは現在の消化器病診療に欠かせない検査法の一つです。

高い診断能と安全性

 EUS-FNAの最大の利点は、体の奥に存在する腫瘍の細胞・組織を、体に負担をかけずにしっかりと採取できることです。EUS-FNAが開発される以前は手術を行って組織採取をしていたような腫瘍であっても、今ではEUS-FNAで安全かつ確実に細胞・組織を採取することができます。 EUS-FNAにより正確な診断が得られる率(正診率)は概ね90%、検査による合併症(出血など)発生率は1% 以下です。具体的な方法を下の図に示しています。この模式図は、膵臓の腫瘍に対してEUS-FNAを施行しているところです。EUSを胃内に挿入し、胃壁の裏に存在する膵腫瘍を描出します。その後、専用の針を用いて胃壁を介して腫瘍を穿刺し、細胞や組織を採取します。概ね1日程度の入院を要します(施設によっては日帰りの場合もあります)。

EUS-FNA が適応となる病気

 体内の臓器に腫瘍の存在が疑われた際には、しっかりと確定診断を得たうえで適切な治療に臨まなくてはなりません。したがって、消化管の外側にがんを疑う腫瘍を認めた場合には、積極的にEUS-FNAが施行されます。特に抗がん剤による治療を行う前には必須です。EUS-FNAが適応となる病気は、膵がんなどの膵腫瘍、癌の転移が疑われるリンパ節、消化管の粘膜下腫瘍などが主たるものです。また、胆嚢がん・胆管がん等が疑われながらも、ほかの検査法で確定診断がつかない場合にも行われることがあります。このように、EUS-FNAは守備範囲がとても広いため、消化器病診療において大変有用な検査といえます。


 

獨協医科大学医学部内科学(消化器)講座
主任教授

入澤 篤志

獨協医科大学医学部内科学(消化器)講座 入澤 篤志
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