頻度は比較的低いですが、同じ臓器の腫瘍が血縁関係のある方々に集中して発生することがあり、「家族性腫瘍」と呼ばれています。消化器領域では大腸がんが最も多く、胃がんや膵臓がんなども家族内に発生することがあります。遺伝子診断や診断後の患者さんの管理に関する方針が提唱されています。
1980年代より血縁者に大腸がんが集中する家系の存在が知られていました。その後、大腸以外の腫瘍も同一家系内に発生することが明らかとなっています。特に消化器領域では、胃がん、膵臓がんなども家族性に発生することがあります。これらの家族性腫瘍の頻度は高くはないのですが、若い時期にがんを発症する重要な疾患群です。ここでは、家族性大腸がんについて解説します。
家族性大腸がんには2つのタイプがあります。一つは大腸にイボ(ポリープ)が数えきれないほど発生し(図)、その一部が大腸がんへと進行するものです。ポリープは組織学的に「腺腫」と呼ばれる良性腫瘍であることから、「家族性大腸腺腫症」と呼ばれています。原因はAPC遺伝子という特定の遺伝子のわずかな異常(バリアントと呼びます)であり、親から子へと50%の確率で遺伝します。また、本症の特徴として、胃、十二指腸、小腸など消化管の広い範囲にポリープが発生し、皮膚や骨にも腫瘍を伴うことが挙げられます。30歳までに大腸がんを発症するため、大腸がんがなくとも予防的に大腸を切除することが治療の中心でした。しかし、大腸ポリープを定期的に内視鏡切除することで大腸がん予防が可能ではないかとの意見もあります。
もう一つは「リンチ症候群」と呼ばれる疾病です。大腸ポリープはそれほど多くないにもかかわらず、若い時期(多くは50歳未満)に大腸がんを発症する家族性腫瘍です。米国の臨床医リンチ博士が本症を確立したため上記疾患名が付与されました。ミスマッチ修復遺伝子と呼ばれる4つの遺伝子のいずれかにバリアントが認められ、50%の確率で遺伝していきます。また、大腸がん以外の消化器や婦人科・泌尿器科領域の悪性腫瘍を伴うことがあります。発生した大腸がんに対しては通常の大腸がんと同様に対処し、残った大腸と全身臓器を定期的に検査することが基本です。なお、現在では家族性大腸腺腫症やリンチ症候群と診断された患者さんの血縁者についても一定の管理指針が提唱されています。
最近は遺伝子解析法が進歩し、上記2疾患以外にも家族性大腸がんに関連する遺伝子が明らかとなっています。また、がんゲノム解析が広く普及したことにより、明らかな家族歴のない家族性腫瘍の診断も可能となってきました。家族性腫瘍を心配される方は、ぜひがん専門施設に相談されることをおすすめします。