一般のみなさまへ

健康情報誌「消化器のひろば」No.25-4

消化器病の薬

飲酒量低減薬「ナルメフェン」

過剰飲酒は肝障害や膵炎などの様々な消化器病を引き起こします。これらのアルコール関連疾患では、アルコール依存症へのアプローチが非常に重要であり、最近は飲酒量低減薬ナルメフェンも用いられるようになりました。

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 アルコールは古来、世界中で嗜まれていますが、過剰飲酒が様々な健康被害をもたらすこともよく知られています。中でも、アルコール関連肝疾患は飲酒者に見られる臓器障害の代表格で、初期病変である脂肪肝からアルコール性肝炎や肝硬変に至る進行性の肝障害であり、肝がんも引き起こします。昨今、肝炎ウイルスに対する治療が飛躍的に進歩している半面、アルコール関連の肝硬変や肝がんの比率が高まっていて問題視されています。また、アルコールは急性膵炎や慢性膵炎・膵がんなどの膵臓病や、食道がんや咽喉頭がんなどの消化管悪性腫瘍の原因としても侮れません。これらのアルコール関連消化器疾患の多くはアルコール依存症を背景として発症するため、依存症へのアプローチが欠かせません。

 アルコール依存症の治療には、禁酒指導が金科玉条のごとく推奨されてきましたが、最近では飲酒量低減もその選択肢に加えられました。本来は精神科での心理社会的治療が基本ですが、現実には臓器障害で受診する各診療科での対応が求められています。薬物療法としては抗酒薬のシアナミド、ジスルフィラム、断酒維持補助薬としてのアカンプロサートが従来、用いられてきましたが、これらの薬物は飲酒欲求そのものを軽減するわけではありません。それに対して、近年導入された飲酒量低減薬ナルメフェンは選択的オピオイド受容体調節薬であり、その中枢神経系への作用メカニズムを介して飲酒欲求が抑制されます。ナルメフェンを飲酒前に服薬することにより、飲酒量を低減させることができるため、最終的な断酒とその継続へと導く中間的なステップとして有用であると考えられています。主な副作用は悪心・嘔吐や浮動性めまい、傾眠などですが、特に悪心に対しては適宜制吐薬を併用することで服薬を継続しやすくなります。麻薬などの依存性薬物に関して、完全にその使用を絶つことができなくても、健康被害や社会・経済的損失を最小限に食い止める政策やプログラムなどの取り組みを「ハーム・リダクション(被害軽減)」と呼んで実践されていますが、アルコールに関しても飲酒量低減が「ハーム・リダクション」につながると考えられるようになってきました。ナルメフェンは、アルコール関連の臓器障害を防ぐ「ハーム・リダクション」の補助薬として期待されています。


 

順天堂大学大学院医学研究科
消化器内科学講座 教授

池嶋 健一

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